Loading...
JP / EN

NEWS

【ブログ】太陽反射波長領域データの代替校正:大気補正と地上検証活動

千葉大学大学院融合理工学府 地球環境科学専攻 リモートセンシングコースに所属してます増田陽一と申します。

現在は、静止気象衛星「ひまわり
89号」の観測データを用いて、アジア・オセアニア地域における総一次生産量(Gross Primary Production, GPP)の推定に関する研究に取り組んでいます。研究では、広域かつ高頻度の観測データを活用し、植生の光合成活動を定量的に評価する手法の構築を目指しています。

これまでのインターン業務では、浸水域のアノテーション業務や、リモートセンシングと深層学習に関連する最新の論文調査に従事してきました。これらの経験を通じて、実データを扱う上での課題や、AI技術の応用可能性について理解を深めることができました。

今回、2025811日に、IEEE GRSS All Japan Joint Chapterが主導した「Optical Tutorial 2025」に参加しました。その中の講義の一つである、産業技術総合研究所の山本浩万先生による「太陽反射波長領域データの代替校正/大気補正と地上検証活動」について報告します。

リモートセンシングの分野では、衛星が取得するデータは、地球上のあらゆる場所の光の強さと位置情報で構成されるデジタルナンバー(DN)という数値の集合体として扱われます。

DN値は、陸域の土地利用分類、海洋のクロロフィル濃度、大気の水蒸気量など、さまざまな物理量を計算するための基礎となります。ただし、DNから正確な物理量を導き出すためには、データの質を保証する「校正検証」が不可欠です。

また、衛星センサーは、打ち上げ時の振動や宇宙空間の過酷な環境にさらされることで、時間とともにその性能が劣化します。この劣化は、特に短波長側のセンサーで顕著に現れ、データの精度に直接影響を与えます。そのため、衛星データを科学研究や実用的な応用に使用する際には、センサーが取得したデータの品質を評価・保証する校正(Calibration)と検証(Validation)というプロセスが不可欠です。校正検証を行うことで、異なる時期や異なるセンサーで取得されたデータを比較・統合することが可能になり、地球規模の長期的な変化を正確に捉えることができます。

1.DN値(Digital Number

衛星や航空機のセンサが観測した光の強さは、光検出器で得られたアナログ信号をデジタル信号に変換したDNとして記録されます。DN値はセンサーごとに定義されたデジタル表現値であり、絶対的な物理量を示すものではありません。これは観測された光の強度を相対的に表す値に過ぎず、放射輝度や反射率といった物理的意味を持つ量に変換しなければ、定量的な解析には使用できません。
Landsat 8 のセンサー(OLI)は、各ピクセルの放射輝度を16ビット(065535DN値として記録します。 

バンド  波長域  DN値(例)  意味 
Band 2(青)  0.45–0.51 µm  4000  比較的明るい(反射率が高い) 
Band 5(近赤外)  0.85–0.88 µm  12000  植生の反射が強い 
Band 10(熱赤外)  10.6–11.2 µm  8000  温度がやや高い 

 

2.大気上端反射率(TopOf Atmosphere Reflectance 

DN値は、校正によって物理単位の放射輝度に変換され、さらに太陽光の強さや観測角度などのジオメトリ情報を使って補正されます。

こうした校正・補正により得られるのが大気上端反射率と呼ばれる値です。大気上端反射率は、地球大気の上端における相対的な反射率を示しており、衛星センサが受け取る反射光の強さを太陽放射に対する割合として表現したものです。ただしこの時点ではまだ大気による散乱や吸収の影響が含まれているため、地表の実際の反射特性とは異なります。

数式
ρ_TOA : TOA反射率
L_λ :  観測された波長帯の放射輝度
d : 地球-太陽間の距離
E_sun,λ : 波長帯における太陽の地球外放射照度
cosθ : 太陽天頂角 

3.大気補正/地表面反射率(Surface Reflectance)

大気補正とは、大気中の分子やエアロゾル(微粒子)による散乱や吸収の影響を取り除く処理のことです。大気補正を行うことで、大気の影響が反映された大気上端反射率から、大気の影響を除いた推定値を算出することが可能となります。

この推定値のことを、地表面反射率と言います。地表面反射率は、実際に地表が反射している光の割合を示す物理量であり、時間や場所、気象条件が異なっても地表面の本来の反射特性を表しているため、正確な地物の特性評価や解析が可能となります。これにより、植生指数の計算や土地被覆分類、水質評価など、リモートセンシング解析の基礎データとして利用されることになります。正確な地表面反射率があることで、衛星データを用いた環境評価や資源調査の精度が大幅に向上します。 

■校正の種類 

1.機上校正(On-Board Calibration) 

機上校正は、衛星に搭載された校正機器を用いて、軌道上でセンサーの特性変化を検知・補正する手法のことです。センサーの経年劣化を把握するため、近年多くの衛星にこの機能が備わっています。しかし、打ち上げ後校正機器自体も劣化する可能性があるため、絶対的に信頼できるとは限りません。 

2.代替校正(Vicarious Calibration) 

代替校正は、衛星が特定の地上ターゲットの上空を通過する際に、地上でそのターゲットの分光反射係数や放射輝度、温度などを測定し、同時に大気の状態を推定することで、軌道上のセンサーを校正する手法です。これは、機上校正機器の劣化による不確かさを補うために特に重要です。高精度な校正には、高反射率で均質な広いサイト(砂漠など)が適しており、米国ネバダ州のレールロードバレーなどが利用されます 

3.相互校正(Cross-Calibration) 

相互校正は、複数の類似した衛星データを比較することで、相互に校正を行う手法です。この方法では、既知の校正精度を持つ衛星を基準とし、新しく打ち上げられた衛星や経年劣化した衛星のデータを補正します。 

4.バンド間校正(Band-to-Band Calibration) 

バンド間校正は、センサーの複数のバンドのうち、校正が安定しているバンドを参照として、モデルを介して他のバンドの出力を推定し、校正する手法です。例えば、同じシーンを異なるバンドで観測した際の、土壌の反射率の線形モデルなどを用いて補正を行います。 

5.月校正(Lunar Calibration) 

月校正は、月と地球、太陽の位置関係が適切な時期を選び、月面の放射輝度を推定することでセンサーを校正する手法です。月には大気がなく、反射率が安定しているため、非常に信頼性の高い校正源となります。ASTERセンサーも、この月を用いた校正に成功しています。 

ここからは、代替校正サイトを取り上げて紹介します。
代替校正サイトの選定にあたっては、以下の必須条件があります 。 

・高い反射率と均質性: 対象センサーの視野(瞬時視野)に対して、十分に広く均質な領域であること。
安定した大気: 大気の状態が可能な限り薄く、時間的に安定しており、晴天率が高いこと。
ロジスティクスの良さ: 測器の運搬コストが低く、安全性が確保されていること。 

国際的に広く利用されているサイトとして、以下の場所が挙げられます 。 

・Railroad Valley (米国): ネバダ州にある平坦で広い砂漠で、NASAや多くの研究機関が共同で観測を行っています。
Alkali Lake (米国): 米国に位置する代替校正サイトです。
Ivanpah Playa (米国): こちらも米国にあり、代替校正実験に利用されています。
Lake Lefroy (オーストラリア): オーストラリアの塩湖で、代替校正サイトとして使用されてきました。 

■ASTERセンサーの紹介:経済産業省とNASAの共同開発 

ASTERAdvanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)は、日本の経済産業省とNASAが共同で開発した高性能な地球観測センサーです。ASTERは、1999年に打ち上げられた地球観測衛星「Terra」に搭載され、可視近赤外から熱赤外までの広範囲な波長を観測することができます。ASTERは、地質学、植生、雲、海洋、雪氷など、多岐にわたる分野で利用され、そのデータはNASAや産業技術総合研究所(AIST)から無償で公開されています。ASTERは短波長赤外域に故障があるものの、そのデータは長期にわたる地球観測研究において重要な役割を果たしています。 

使用機器と現地観測手順 

現地観測で用いられる主要な測器は以下の通りです。 

・分光放射計(ASD FieldSpec: 地表面の分光反射係数を測定するハンドヘルドタイプの機器です。
太陽光度計(Microtops-IIPOM-02: 大気中のエアロゾル、水蒸気、オゾンの量を測定する機器です。
環境センサー(T&D TR-73U: 大気圧、温度、湿度を測定します 。
白板(Labsphere Spectralon: 反射率が100%とみなせる標準白色板で、地表面の反射率を計算するための基準として使用されます。
GPS機器(GARMIN GPS73H: 観測地点の正確な位置を把握するために使われます。
カメラ(Nikon CP4300など): 雲の状態や天候を記録するために用いられます。 

実際の観測手順 

現地での観測は、日の出前からの準備を含め、複数のステップで実施されます。 

1.ラングレー校正の実施: 観測前日に、太陽光度計(Microtops-IIなど)の機器定数を確認・更新するためにラングレー校正を行います。これは、日の出前から大気中のエアマス(太陽光が大気を通過する厚さ)を測定し、エアマスがゼロ(大気の影響がない状態)の時の値を外挿することで機器定数を決定する手法です。 

2.地表面反射率の測定: 衛星が上空を通過するタイミングに合わせて、分光放射計を用いて地表面の反射率を測定します。測定に先立ち、標準白色板(白板)の反射率を測定し、これを基準値とします。ASTERセンサーの代替校正では、約60m×90mの範囲を行き来しながら測定が行われます。 

3.大気データの取得: 太陽光度計を用いて、エアロゾル、水蒸気、オゾンなどの大気データを継続的に測定します。これらのデータは、衛星データの「大気補正」を行うための重要な入力となります。 

4.位置・時間情報の記録: 衛星から見た地上観測地点の正確な位置と、衛星が通過する正確な時刻を計算しておくことが重要です。 

大気補正計算手順 

放射伝達モデル:太陽光が大気中を伝播する物理過程を数式でシミュレーションする手法

講義の中で紹介された手法は、MODTRAN5.26sV2.1という二つの主要な放射伝達モデルを組み合わせて使用するものとなります。それぞれのモデルが持つ独自の強みを最大限に活用する形です。MODTRAN5.2は、その高いスペクトル分解能によって、O3​、NO2​、O2​といった特定の吸収性ガスの透過率を非常に正確に計算するのに適しています。一方、6sV2.1は、BRDF効果や多重散乱の計算に優れている点が大きな利点となります。この手法では、MODTRAN5.2で計算されたガス透過率や大気プロファイルを6sV2.1の入力データとして利用します 

地表面関連データの準備 

・標準白色板や反射標準の測定時の太陽天頂角を記録する。
使用する標準反射板のBRDF(双方向反射率分布関数)を室内実験で取得する。
・これらのデータから、プログラムを用いてラインごとの平均値と標準偏差を算出し、データを選別する。 

大気関連データの準備(Microtops-IITR-73UGOSAT等): 

・Microtops-II M540でエアロゾル量と気圧を、M521で水蒸気量とオゾン量を測定する。
TR-73Uで温度と気圧を測定し、MODTRAN5.2の入力データとする。
GOSAT等のデータからCO2量をMODTRAN5.2に入力する。 

放射伝達計算(MODTRAN5.2および6sV2.1): 

・MODTRAN5.2を用いて、特定の波長におけるO3NO2​O2​の透過率を計算する。
Microtops-IIの観測値から大気の全光学的厚さ τ を算出する。
6sV2.1のレイリー散乱モデルからレイリー光学的厚さ τ_air を計算する。
MODTRAN5.2で計算したガス透過率からガス光学的厚さ τ_gas を計算する。
全光学的厚さから、 τ_aero =  τ –  τ_air –  τ_gas によってエアロゾル光学的厚さτ_aeroを導出する。
地表面の標高値とMicrotops-IIの観測値を用いて、標準大気モデル(US62MIDSUM等)を補正する。
6sV2.1にこれらのパラメータを入力して、衛星での観測放射輝度をシミュレーションする。 

Microtops-II M540: エアロゾル光学的厚さ(AOT)の測定に特化している。ユーザーが指定した波長(380 nm, 500 nm, 675 nm, 870 nm, 1020 nm)を含む、複数の光学チャンネルを選択して搭載することができる。
Microtops-II M521: 総水蒸気量と総オゾン量の測定に使用される 。水蒸気量の測定には936 nm1020 nmのチャンネルが、オゾン量には3つの紫外波長チャンネルが用いられる。 

光学センサのための利用可能なソフトウェア:ENVIERDASPythonライブラリ 

ほどのMODTRAN5.26sV2.1は1点ごとの計算に特化しているため、画像全体の処理には向いていません。衛星画像全体を大気補正するソフトウェアには、有償のものと無償のものがあります。 

有償ソフトウェア:
・ENVIFLAASHQUACといった、MODTRANベースの大気補正ツールを備えています。
ERDAS IMAGINEATCORMODTRANベース)などの大気補正機能を提供しています。
ReSe ATCOR: これらソフトウェアに組み込まれているATCORは、単体としても販売されています。(https://www.rese-apps.com/software/atcor/index.html 

無償ソフトウェア:
・SNAP (Sen2Cor): 欧州宇宙機関(ESA)が提供するSentinel衛星向けのツールですが、他のセンサーにも応用可能です。コマンドラインやQGISのプラグインとしても利用できます。
Py6S: Pythonで放射伝達計算を行うためのライブラリです。近年、多くの研究者や開発者に利用されています。(こちらの論文に記載– Wilson, R.T., 2013. Py6S: A Python interface to the 6S radiative transfer model. Computers & Geosciences, 51, pp.166-171.
LaSRC: LandsatSentinel-2のデータ処理に使われるアルゴリズムで、6sV2.1の開発者によって作成されました。
眞子直弘, 2016. Python を利用した衛星画像の大気補正. 日本リモートセンシング学会誌, 36(4) ~ 37(1)
飯倉善和, 2016. 衛星画像処理プログラムのオープンソース化について—Github を利用した公開—. 日本リモートセンシング学会誌, 36(4), pp.412-416. 

エアロゾルによる影響
エアロゾルとは、大気中に浮遊する微粒子で、その種類によって太陽光の吸収・散乱特性が異なります。これは衛星観測データに大きな影響を与えるため、大気補正において正確な補正が非常に重要となります。主なエアロゾルの種類とそれぞれのスペクトル特性は以下の通りです。
・大陸型(Continental: 陸地から発生するエアロゾルで、可視域に大きな誤差が生じます。
海洋性(Maritime: 海洋から発生する塩分を含んだ粒子で、可視域の誤差が特に大きくなります 。
都市型(Urban: 都市部で発生する、主にすす(煤)を含んだエアロゾルです。近赤外域に影響を与える場合があります。
バイオマス燃焼(Biomass Burning: 森林火災などから発生するすすが主成分で、近赤外よりも可視域で大きな誤差を引き起こします。 

■エアロゾル観測サイト:SKYNETAERONET 

エアロゾルの特性を正確に把握するため、地上観測ネットワークが世界中で運用されています。代表的なものとして、SKYNETAERONETが挙げられます。
・SKYNETは、日本で運用されている観測ネットワークで、POM-02などのスカイラジオメーターを用いてエアロゾルの光学特性を測定します。
・AERONETは、NASAとフランスのPHOTONSが主体となって構築されたグローバルなネットワークで、CIMEL CE318-TS9などの太陽光度計を使用しています。両ネットワークのデータは、大気補正の精度検証に広く利用されています。日本では、筑波(TGF)、高山(TKY)、富士北麓(FHK)などに観測サイトが設置されています。 

■再解析データの活用:CAMSなど 

地上観測データが欠損している場合や広域的な補正を行う場合、再解析データが重要な代替手段となります。
・CAMSCopernicus Atmosphere Monitoring Service)のような再解析データは、気象モデルや衛星観測データを組み合わせて大気の状態を推定するものです。
CAMSの再解析データは、MODIS大気プロダクトよりも地上観測データとの相関が良い傾向が示されており、大気補正アルゴリズムの優れた入力パラメータとなり得ると考えられています。 

これらのエアロゾル観測データや再解析データは、エアロゾルの光学的な厚さ(AOD)や、オゾン・水蒸気量などの大気パラメータを網羅的に提供するため、大気補正に非常に有用です。
 

まとめ 

衛星データを正確に利用するためには、代替校正大気補正の二つのプロセスが非常に重要であることが分かりました。

まず、代替校正については、時間の経過とともに劣化する衛星センサーの性能を確認・補正するために行われるものであることを理解しました。地上で取得した反射率や大気の状態データを用いて、衛星観測の精度を維持する仕組みになっており、機上校正だけでは補えない部分を地上観測やネットワーク(RadCalNetFLAREなど)が支えていることが分かりました。

一方で、大気補正は、衛星が取得した光学データから地表面や海面の反射特性を正確に求めるための最初の重要な工程であることを学びました。特に、大気中の分子散乱やエアロゾルの影響を補正する必要があり、その中でもエアロゾルの空間的不均一性や種類の違い、雲の影響などにより、高精度な補正が難しいことが分かりました。しかし、再解析データ(CAMSなど)や地上観測ネットワーク(AERONETなど)を利用することで、補正精度を向上させることができることを知りました。

これらの校正や補正の工程は、一見すると地味で時間のかかる作業に見えますが、最終的に衛星データから信頼性の高い物理量を得るためには欠かせない重要な基礎であると感じました。今後、衛星データを取り扱う際には、品質の確認と精度の管理を常に意識して取り組んでいきたいと思いました。 

【プレスリリース】スペースシフトと WHERE、人工衛星データを活用した不動産ソリューションの開発・提供に向けMOUを締結

SAR衛星データとAI活用で地図整備をDX

【プレスリリース】スペースシフトとジオテクノロジーズ、SAR衛星データとAIを活用した建物変化抽出ソリューションで地図整備のDXを推進 ~ジオテクノロジーズの地図建物更新率1.8倍を実現~